コラム
2025/12/05

SNSの投稿が示談・裁判に影響する?交通事故後の情報発信の注意点

 交通事故後のSNS投稿には思わぬ落とし穴があります
 加害者側の保険会社や裁判所が損害額・怪我の症状を評価する際、SNS上の投稿内容を「不利な証拠」とする可能性があるためです

 例えば、症状が重いという前提で治療をしていたとします。
 しかし、治療中であるにもかかわらず、元気そうにスポーツをしている写真がSNS上に投稿されていると、症状が軽い。」・「そもそも治療の必要性がない。」・「後遺障害は残っていない。」などと主張される可能性があります
 その結果、法的に因果関係が認められる治療期間が実際よりも短く認定されたり、後遺障害が否定されるなどのリスクがあります。

 また、加害者への誹謗中傷を含む投稿は、名誉毀損やプライバシー侵害を理由として、損害賠償請求がされるリスクもあります。そして、感情的な投稿は、加害者側の態度を硬化させ、示談成立を難しくする原因にも繋がりかねません

 現代において、SNSは情報の宝庫です。そして、加害者側の保険会社や弁護士は、あなたのSNSをチェックしている可能性があります
 安易な投稿で不利な状況に陥ることのないよう、SNSの投稿には注意しなければなりません。

 本記事では、交通事故後のSNSでの発信について、≪示談に影響する理由≫・≪不利に働く例≫・≪実際の裁判例≫・≪チェックリスト≫などを、交通事故(被害者側)の賠償請求に豊富な解決実績を有する弁護士が解説します。


SNSが「証拠」として使われる時代に

 現代社会でSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、日常のあらゆる場面に浸透しており、法律の世界でも、SNS上の投稿が証拠として使われる時代になっています
 SNSはもはやプライベート空間ではありません。

 代表的な事件類型は「不貞(不倫)の慰謝料請求」ですが、交通事故でもSNS投稿は重要な証拠となります。そして、加害者側の保険会社や弁護士は、被害者のSNSを調査して、心身の状態、行動履歴、治療実態などを裏付ける材料にします。

 交通事故と一見無関係と思える投稿であっても、証拠として使用されるかもしれません。
 
SNSでの発信は不利に働くリスクがあると認識して、慎重に行うようにしましょう


なぜSNS投稿が示談・裁判に影響するのか

 加害者側の保険会社や弁護士は、被害者のSNS(X、Facebook、Instagram、TikTokなど)を調査して、加害者側にとって、有利に働く証拠を探しています。
 特に、症状の訴えに不審な点がある場合、専門の調査会社(リサーチ会社)が徹底的に調査を行います。

 スポーツや趣味の再開、仕事復帰の報告などに関する投稿があれば、治療・休業の必要性、後遺障害の有無等について、これらを否定する根拠となるリスクが出てきます(そもそも、真実、復職しているのに休業したという前提で休業損害を請求することは、詐欺罪(刑法246条1項)に該当する可能性があります。)。

 例えば、「痛みで歩けない」と主張しているにもかかわらず、SNS上で「ランニング大会完走」と投稿していれば、明らかに矛盾しています。したがって、「そもそも治療が必要ない。」・「痛みが本当に続いているのか?」・「後遺障害は存在しない。」といった主張の材料にされてしまうでしょう。

 被害者がSNSにあえて虚偽の投稿をする理由は考え難いため、裁判になったときにも、有力な証拠と判断する可能性があり、被害者としても反論が苦しくなります。

 投稿内容そのものだけでなく、日時・頻度・写真の表情・コメント欄なども重要です。細かな点も、加害者側や裁判官が抱く印象に悪影響を与えるおそれがあります。
 例えば、趣味の活動を頻繁に投稿している、写真の表情が明るいといった状況であれば、症状が軽いと判断されかねません。病状を心配するコメントに対して、気を遣って「すごく良くなりました。」と返信するのも危険です

 SNSでは、投稿内容や日時が明確となるため、証拠としての信用性が認められやすいです。 一見法的トラブルと関係がないと思えても、示談が難航する要因となり得るので、十分注意しなければなりません


SNS投稿が不利に働く可能性のある例

 SNS投稿が不利に働く可能性がある例としては、以下が挙げられます。

① 旅行写真の投稿

 「○○に旅行に行きました!」といったメッセージや写真は、「日常生活に支障がない。」・「症状が改善されている。」と評価される可能性が少なからずあります。
 もちろん、交通事故後の旅行や外出が一切禁じられているわけでもありませんし、症状によって旅行が可能な場合はあります。
 
とはいえ、「第三者(特に加害者側)から見たらどう映るか?」という点は常に頭に入れておきましょう。

② スポーツ・趣味活動の投稿

 「久しぶりのゴルフ」・「ヨガを再開」といった、スポーツ・趣味の投稿は危険です
 「体が動く」・「アクティブに活動している」と考えられるため、症状が軽いものと判断され、治療の必要性や後遺障害の有無に疑問を抱かれます。

 交通事故の被害で落ち込んでいるときに、気分転換は必要です。しかし、顔を出しただけで普段通りに活動していないとしても、投稿を見た加害者側や裁判官には、そこまで伝わらないかもしれません。安易な発信には注意しましょう。

③ 加害者を誹謗中傷する投稿

 「加害者の○○(実名)の対応が最悪だった」・「住所と電話番号晒しとく」といった、加害者側を誹謗中傷する投稿は絶対にNGです

 SNSは不特定多数に閲覧されるものです。加害者側の社会的評価を下げるような投稿は、名誉毀損に該当する可能性があります。加害者の氏名・住所・電話番号などの個人情報を晒せば、プライバシー侵害になり得ます。いずれについても、民事上の損害賠償請求をされかねません。
 場合によっては、名誉毀損罪(刑法230条1項)や侮辱罪(刑法231条)に該当するとして、刑事責任を追及される可能性もあります。

 例え、加害者側の対応に不満があったとしても、SNSへの投稿は避けてください。


実際の裁判事例

 事故後のプライベートな情報が、裁判にどのような影響を与えたのかを実例を見ていきましょう。なお、紹介する裁判例について、判決上、SNSの投稿のものを原因とするか判然としないものも含まれておりますのでご容赦ください。

➊ 仙台地判令3・6・30LLI/DB 判例秘書登載(判例番号:LO7651609)

【事案の概要】

 車両同士の交通事故で、被害者は頚椎捻挫・胸椎捻挫・腰椎捻挫・左膝捻挫の傷害を負った。
 残存した症状に関して、「項頚部及び腰背部に常時痛みが残存し、頚椎及び胸腰椎部に可動域制限を残した。項頚部及び腰背部の常時の痛みはいずれも後遺障害等級12級13号に該当する(併合11級)」と、被害者が主張した。

【裁判所の判断の要旨】

 被害者は、「項頚部及び腰背部の常時の痛みが残存している旨主張し、これに沿う供述」をするが、証拠(乙11)によれば、 「本件事故の約1年4か月後」に「サーフィンの大会に出て準優勝した事実が認められ、現在も常時の痛みが残存している」との供述は信用できず、また、仮に「多少の痛みが残存しているとしても、継続性を有するものとは認め難い」などと判断し、後遺障害の存在を否定した

❷ 名古屋地判令3・7・21LLI/DB 判例秘書登載(判例番号:LO7651856)

【事案の概要】

 駐車場内における車両同士の交通事故。被害者は、頚部挫傷・腰部挫傷などの傷害を負った。症状固定時に「頚部痛、右上肢のシビレ感及び脱力感といった症状が残存」したところ、他覚的所見により証明可能な神経症状(特に右上肢のシビレ感及び脱力感)を残すに至ったから、後遺障害等級12級13号に該当すると被害者が主張した。

【裁判所の判断の要旨】

 ㋐外傷所見を示す画像所見等が認められないこと、㋑スパークリングテスト等神経学的テストを複数回実施したものの、異常所見が認められないこと、㋒症状経過からすれば、整形外科でのリハビリを経て相当程度軽快していること、㋓事故態様から衝突時の衝撃がそれほど大きなものになるとは考え難く、被害車両の修理費用も13万0885円程度に収まる比較的軽微なものであったことに加えて、被害者が事故後1か月程度で、全身運動であるフットサルを再開し、現在も特に支障なくフットサルを続けていることに鑑みれば」、他覚的な証明が可能な後遺障害(後遺障害等級12級13号)も、受傷状況や治療経過等から一貫し、症状の存在が医学的に推定される程度の後遺障害(後遺障害等級14級9号)も残っていると認め難く後遺障害が残ったとの主張は採用できないと判断した。

❸ 東京地判令5・12・21LLI/DB 判例秘書登載(判例番号:LO7832534)

【事案の概要】

 高速道路上にて、被害者が同乗する乗用車がパンクし低速度で進行したため、後続トラックが追突した事故。
 被害者1名に関して、後遺障害診断書には「外傷性左脳内出血・左内頸動脈海綿静脈洞瘻・脳挫傷・急性硬膜外血腫」の傷病名、また右麻痺、失語の症状、右上肢及び右下肢の機能障害が記載されていた。
 自賠責保険は、「事故当日の頭部CT上、陳旧性の脳挫傷痕がうかがわれ」、また「事故前から身体機能障害等があり、介護が必要な状態であったことがうかがわれる」ことを踏まえ、「事故によって本件事故前からの失語障害や身体性機能障害が悪化したかどうかは判然とせず、障害等級表上の障害程度を加重したものとは捉え難いことを踏まえれば」、後遺障害に該当しないと判断した。
 裁判において、被害者は、「各障害(具体的には、右片麻痺、失語症、記憶障害及び情動コントロール障害、左眼の機能障害等)によって、食事、更衣、入浴、排せつ排便、移動及び買い物等の日常生活のすべてにおいて介助が必要であり、1日中寝たきりのような状態となっている」ことを踏まえ、その程度は、別表第1・第1級第1号に該当、少なくとも同第2級第1号に該当すると主張した。

【裁判所の判断の要旨】

 ㋐「救急搬送された時点で、簡単な言葉を発し、漢字の指示に応じて足を動かすことができ」、「問いかけに対し、開眼と頷きがあったことが認められる」等から事故直後に意識障害があったと認め難いこと、㋑頭部MRI検査の結果では、事故による重篤な脳損傷を認めることが出来ないこと、また㋒診療録上の症状経過に加えて、㋓「日常的にSNSを利用しており、スマートフォンで自らの姿を撮影して配信し、フォロワーと交信するなどしているところ」、 「路上で右足に体重をかけ、左足を少し曲げた状態で立っている様子の写真」・「自らがプレゼントした腕時計を装着した父の手を撮影した動画」・「腕時計の修理確認書に署名している写真」・「麻雀をしている動画」・「自ら調理した料理を撮影した写真」があった等の諸事情に照らして、後遺障害に該当しないとした自賠責の結論を否定する根拠がないと判断した

➍ 京都地判令3・5・11LLI/DB 判例秘書登載(判例番号:LO7651766)

【事案の概要】

 車両同士の事故。被害者は、腰痛及び右膝関節痛の症状が残存し、他覚的所見による裏付けを伴うものとして、いずれも後遺障害等級12級13号に該当すると主張した。

【裁判所の判断の要旨】

 右膝関節痛について、画像所見では「靭帯の損傷であって完全断裂ではなく、症状が疼痛及び膝崩れが時折生じるというものでそれほど重篤なものではないから、時間の経過によって修復され、損傷したまま残存することはないと考えられる」としたうえで、実際、 「SNSに、『昨日練習でのミット打ちで一度全力で蹴ってみようと蹴り込んだら、軸足の膝を捻ったみたいになり一発負傷。』と投稿」等があるから「右足による全力のミット打ちができる状態」であったことなどを踏まえて、「他覚的所見の裏付けがあるとはいえないから、後遺障害等級は14級9号に止まる」と判断(12級13号は否定。ただし、腰痛は後遺障害等級12級13号の認定)した。
 なお、加害者側は、右膝の受傷原因について、SNS上で「日常的に空手、ウエイトトレーニング、ランニング、登山、ラリー等の活動をしていること」を捉え、「これらが真の受傷原因」と主張したが、裁判所は、これら活動は「他原因で受傷することがあるとの一般的・抽象的な可能性を示唆するに止まり」、「右膝の受傷がこれらによることの具体的な証拠とはならないから、反証として十分なものではない」とも判断している。


投稿前に確認するチェックリスト

  SNS投稿に関しては、以下の点をチェックしておきましょう。

 

チェックポイント

問題になる理由

外出・運動・レジャーの要素がないか?

治療・休業不要、後遺障害否定の理由に繋がる

同席者の投稿にタグ付けされていないか?

間接的に行動が判明するおそれ

加害者側を批判していないか?

名誉毀損や示談破談の可能性

医師名・病院名を明記していないか?

医療機関への風評被害リスク

 自身の行動に関するものだけでなく、加害者側(加害者本人・保険会社・弁護士)や医療機関を批判する投稿にも注意してください。
 家族や友人といった周囲の投稿から判明する場合もあるため、自身が関係するものは掲載しないようお願いしておくと安心です。


交通事故の直後〜解決までのSNS利用の注意点

 リスクを避けるために、交通事故の直後から解決に至るまでは、以下の点に注意しましょう。 
 なお、いずれの段階でも、感情的な発言や加害者側への攻撃的なコメントは控えてください。不安や不満がある場合には、弁護士に相談して打ち明けると良いでしょう。

 交通事故の直後

 事故直後は、どうしても感情的になりがちです。しかし、加害者側を批判する内容は致命的になるため、避けなければなりません。
 混乱した状況では冷静な判断が難しいため、原則として投稿しないように注意しましょう

 治療中

 治療中に元気な様子を見せると、治療の必要性や後遺障害該当性を否定される材料になります。
 一見問題がないと考えられることでも、法的にはマイナスに作用するおそれがあります。完全に禁止ではありませんが細心の注意が必要です。

 示談交渉・訴訟中

 示談交渉中や訴訟中には、内容や手の内を明かしてはなりません。
 「非公開アカウントでの投稿」・「ストーリー限定公開」であっても、スクリーンショットや第三者の共有を通じて拡散するおそれがあります。
 可能な限り、投稿を誰にも見られない状態にしておくのが良いでしょう。


まとめ

 ここまで、交通事故におけるSNS投稿について、示談への影響や裁判例などを解説してきました。
 SNS上の投稿は証拠として利用され、示談や裁判の結果を左右するおそれがあります

 投稿が与える印象が、症状や損害の評価に影響する可能性があるので、できるだけ慎重にすべきです。また、加害者側を非難する投稿も、名誉毀損などに該当して法的責任が生じるリスクがあるため、絶対に控えるようにしてください。

 リスクが生じないようにするには、治療中や後遺障害申請中を含めて無事に解決するまでの間は、原則として投稿を控えるのが安全です。 
 加害者側への不満や解決に関する不安は、弁護士に相談して打ち明けるのがオススメです。ご検討ください。


【この記事の監修弁護士】

弁護士 國田 修平
第二東京弁護士会所属
湊第一法律事務所・パートナー弁護士

依頼者と「協働する姿勢」と、法律用語を平易に伝える対話力に定評がある弁護士。
紛争の背景にある事情を丁寧にくみ取り、依頼者と共に解決への道筋を描くスタイルを貫いている。

<略歴>
愛媛県出身。明治大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。

全国展開の弁護士法人に入社し、2年目には当時最年少で所長弁護士に就任。その後、関東に拠点を移し、パートナー弁護士として、組織運営や危機管理対応、事務局教育などに携わる。労働法務・社内規程整備などの企業法務から、交通事故・相続・離婚・労働事件といった個人の法律問題まで幅広く対応。中でも、交通事故(被害者側)の損害賠償請求分野では、850件の解決実績を有する。
弁護士業務の傍ら、母校・明治大学法学部で司法試験予備試験対策講座の講師も務め、次世代を担う法曹育成にも力を注いでいる。

<主な取扱分野>
企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
債権回収

交通事故などの損害賠償請求事件
労働事件(労使双方)

<弁護士・國田修平の詳しい経歴等はこちら>

© 湊第一法律事務所 交通事故専門サイト