加害者側の保険会社から提示された賠償額はわずか1700万円—。不当に低額であったものの、裁判手続きを実施し、その倍額以上となる4100万円で解決できた事例。 |
目次
ご相談の背景 |
被害者であるA様(女性)は、早朝、日課の散歩のため、横断歩道を歩行していました。その際、加害者の運転する乗用車が、前方不注意のまま、時速約40㎞で横断歩道に進入—。
その結果、A様が車両と衝突してしまうという悲惨な事故が発生したのです。
事故直後に救急搬送が行われたものの、A様の尊い命が奪われてしまいました。
加害者は、「メーター表示に気を取られていた。」と供述しており、脇見運転による明らかな過失事故でした。
A様は、ご主人様と2人暮らしで、長年に渡って家事全般を担い、健康に気遣った食事を用意するなどして、家庭生活を支えていました。また、既に独立した2人の子どもとも家族の絆が深く、お互いに支え合う関係でもありました。
愛する妻・母を失ったご遺族様は、加害者側の任意保険会社との賠償交渉に不安を感じていました。
そこで、当職にご相談のうえで、ご依頼をいただくこととなりました。
担当弁護士の対応 |
① 加害者側の保険会社との示談交渉 |
当職は、ご依頼を受け、加害者側の任意保険会社と交渉を開始しました。しかし、その際、提示された金額はわずか1700万円—。
死亡事故の場合、慰謝料・逸失利益・葬儀費用などを含めれば、賠償額は一般的に数千万円となるのが実情です。しかし、今回の保険会社の提示する金額は、自賠責基準と同程度の水準であり、死亡事故の賠償額としては明らかに低額でした。
保険会社からの提示金額があまりに低額であったため、当職は、保険会社の担当者に対し、更なる増額を要求しました。
しかし、加害者側からは、「自賠責基準以上の賠償金を支払うつもりはない。」などと、あまりにも不誠実な対応がなされました。
ご遺族様は、「大切な家族を失って、こんな金額で済まされるのか。」と強い憤りを抱かれ、裁判での解決を望まれました。当職としても、1700万円での示談締結はあり得ないと判断し、訴訟提起をすることにしました。
② 裁判における主張と立証 |
㋐ 加害者の過失割合100%を主張 |
被害者であるA様は、事故当時、横断歩道上を歩いており、また小型ライトを持つなどして、周囲に気づいてもらう配慮を実施していました。一方、加害者は、時速約40㎞ものスピードで、前方不注意のまま、横断歩道に進入しており、A様の存在を完全に見落としていました。
そのため、今回の事故発生の責任は、全面的に加害者にあるはずでした。
そこで、当職は、実況見分調書や刑事裁判の確定判決などの証拠をもとにして、今回の案件において、被害者であるA様には、過失が一切ないことを主張しました。
その結果、当職の主張が認められ、裁判所においても、加害者の過失割合が100%であることを認定しました。
㋑ 主婦としての逸失利益を適正に評価 |
加害者側は、「被害者が高齢である。」ことを理由にして、「家事労働に関する逸失利益(将来得られたはずの収入)」を一切認めませんでした。
これに対し、当職は、主に次の点を詳細に主張しました。
1⃣専業主婦の家事労働には経済的価値があること:家事は、家庭生活の基盤を支える労働として、経済的価値が認められております。過去の裁判例でも、逸失利益が認められるのが通例です。
2⃣年齢別の賃金センサスではなく、全年齢平均賃金を基礎とすべきであること:高齢者の家事労働に関する逸失利益を算定する場合には、年齢別の賃金センサス(平均賃金)を基準とすることが一般的です。そのうえで、さらに年齢別の金額から減額調整が行われます。
しかし、日常生活における家事労働は、年齢に応じて増減するものではなく、むしろ高齢になるにつれて、時間をかけて家事を丁寧に行うといえることや、長年の経験によって質が高くなっているといえます。また、A様が食事の準備や掃除・洗濯、日用品の買い出しの全てを実施していた事実も詳細に主張して、年齢別の賃金センサスを利用することは妥当ではなく、全年齢の平均賃金を基準にするべきであると主張しました。
その結果、家事労働の逸失利益について、全年齢平均の賃金センサスによる算定は行われなかったものの、年齢別の賃金センサスから減額されることなく、逸失利益の算定がされました。
家事労働に関する基礎的な考え方は、「主婦・主夫も休業損害を請求できる?『家事休損』の意味と計算方法を弁護士が詳しく解説。」もご覧ください。 |
㋒ 死亡慰謝料の増額を求める |
死亡慰謝料についても、加害者側の保険会社は、最低限度の金額(自賠責基準額)しか提示していませんでした。
そこで、当職は、主に次の点を裁判官に対し、訴えました。
・被害者本人の無念さ |
・長年連れ添った配偶者と最期の言葉を交わせなかった無情 |
・加害者側が誠意を欠いた態度を取り続けたこと |
・街灯も点灯し、被害者を容易に発見できたにもかかわらず、脇見運転をした加害者の悪質性など |
その結果、裁判基準での死亡慰謝料が認定されることになりました。
③ 裁判上での和解 |
このように、当職は、主張を裏付ける証拠を提出したうえで法的主張を行いました。そのうえで、今回の事故に至るまでの被害者の生活状況や本件事故によって、ご遺族様の方が抱えた思いを、裁判官に訴えた結果、有利な心証で裁判が進行し、最終的に約4100万円という金額で裁判上の和解を成立させることができました。
この金額は、保険会社の当初提示額(1700万円)の実に2倍以上の額でした。今回の成果は、ご遺族の無念を少しでも晴らし、故人の思いを形にする大きな一歩になったのではないかと思います。
弁護士がサポートした結果 |
✅加害者の過失割合100%の認定
✅主婦としての逸失利益が評価された
→ 保険会社は「高齢である。」との理由で主婦の逸失利益を否定していました。しかし、ご存命の際の家事の実態を丁寧に主張した結果、適正額での逸失利益が認定。
✅裁判基準での慰謝料獲得。
✅最終的な解決金額として、約4100万円を獲得。
→ 当初提示額1700万円から2倍以上の大幅増額を実現。
担当弁護士のコメント |
交通事故で大切なご家族を失うという出来事は、残されたご遺族にとって、言葉に尽くせぬほどの悲しみをもたらします。
しかし、現実には、その悲しみの最中にあっても、加害者側の保険会社と賠償交渉を行わなければなりません。
ところが、多くの場合、保険会社が提示してくる賠償額は、本来受け取れるべき金額よりも大幅に低い水準にとどまります。「こんなものなのか。」と受け入れてしまうこともありますが、専門的に精査すると、数千万円単位で不足していることも珍しくありません。
今回ご紹介したのは、当職にご依頼いただいた死亡事故の事例となります。ご遺族の方が「適正な賠償を受けたい。」との強い思いを当職に託してくださりました。その結果、当初提示額の2倍以上にあたる4100万円での解決を実現することができました。
被害者の人生、家族への貢献、事故によって失われたものの大きさを数字に置き換えるのは容易ではありません。特に、死亡事故や重度後遺障害の事案では、被害者側が冷静に判断することは非常に困難です。一方で、保険会社は、自社の利益を守る立場から、低額の提示を行うのが実情です。
「提示された金額が妥当かどうかわからない。」・「保険会社の対応に納得できない。」・「裁判になった場合の見通しを知りたい。」—。
このようなご不安をお持ちの方は、ぜひ、湊第一法律事務所へご相談ください。
湊第一法律事務所では、交通事故分野に精通した弁護士が、これまで多数の死亡事故・後遺障害事案を解決してきました。
私たちは、今後も、民事賠償請求に加えて、犯罪被害者の支援活動も実施しながら、ご遺族の心情に寄り添い、正当な補償を実現するために全力を尽くします。
死亡事故のご遺族の方が有する権利の詳細は、「大切なご家族を失ったご遺族の方へ|死亡事故の損害賠償で保障されるべき民事上の権利」もご覧ください。 |
投稿日:2025年8月26日
【この記事の監修弁護士】
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弁護士 國田 修平 依頼者と「協働する姿勢」と、法律用語を平易に伝える対話力に定評がある弁護士。 |
<略歴>
愛媛県出身。明治大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
全国展開の弁護士法人に入社し、2年目には当時最年少で所長弁護士に就任。その後、関東に拠点を移し、パートナー弁護士として、組織運営や危機管理対応、事務局教育などに携わる。労働法務・社内規程整備などの企業法務から、交通事故・相続・離婚・労働事件といった個人の法律問題まで幅広く対応。中でも、交通事故(被害者側)の損害賠償請求分野では、850件の解決実績を有する。
弁護士業務の傍ら、母校・明治大学法学部で司法試験予備試験対策講座の講師も務め、次世代を担う法曹育成にも力を注いでいる。
<主な取扱分野>
・企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
・債権回収
・交通事故などの損害賠償請求事件
・労働事件(労使双方)