交通事故によって大切なご家族が意識を失って、長期間回復しない状態に陥ったとき、ご家族が背負う負担は計り知れません 。
「意識は戻るのか。」・「これからどれだけ費用がかかるのか。」「どこに相談すれば良いのか。」
日々の介護に追われながら、先が見えない不安と戦っている方も多いことでしょう。
長期の意識障害が続く状態を、医学的に「遷延性(せんえんせい)意識障害」 といいます。
このような重い後遺障害が生じた場合、治療費・介護費、休業損害、逸失利益、慰謝料などを損害賠償請求できます。
しかし、加害者側からは、「余命が短いから介護費用はさほどかからない。」・「自宅での介護は必要ない。」・「家族が介護するなら費用は低くて良い。」といった、心ない主張がされることも珍しくありません。
ただでさえ追い詰められた状況の中で、冷たい対応をされ、心が折れてしまう方も少なくありません。
今後の生活・介護の体制を支えるには、適切な損害賠償金が不可欠です。
しかし、損害賠償請求の際には、被害者本人が十分な意思表示ができないため、「成年後見人」の選任を要します。また、加害者側の保険会社との交渉や膨大な記録の整理など、ご家族だけで進めるには大きな負担となります。
これらの法的手続きをご家族だけで進めるのは大変な負担です。しかし、全てを抱え込む必要はありません。
弁護士に気持ちや悩みを打ち明け、法的手続きを任せることで適正な金銭的補償を受けつつ、生活基盤の構築に集中できます。
本記事では、交通事故による遷延性意識障害(植物状態)について、≪請求できる損害項目≫・≪必要な法的手続≫・≪家族の権利≫などを、交通事故(被害者側)の賠償請求の経験が豊富な弁護士が解説します。

目次
遷延性意識障害とは |
交通事故で頭部に強い衝撃を受けると、脳出血・脳挫傷・びまん性軸索損傷などが起こり、長期間の意識不明の状態、いわゆる植物状態になることがあります。これを医学的には「遷延性(せんえんせい)意識障害」と呼びます。
日本脳神経外科学会が定めた定義(1972年)によると、遷延性意識障害が認められるのは、治療にもかかわらず、3ヶ月以上にわたって、以下の6つの状態全てを満たすケースになります。
| ①自力で移動ができない |
| ②自力で食事がとれない |
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③意思に関係なく尿や便が漏れてしまう |
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④声を出しても意味のある言葉を発することができない |
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⑤簡単な命令(「眼を開け」、「手を握れ」など)に応じることがあっても、それ以上の意思疎通ができない |
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⑥眼球で物を追えても認識はできない |
全ての脳機能が停止し回復の見込みがない脳死と異なって、遷延性意識障害では脳の一部の機能が保たれ、人工呼吸器がなくとも自発呼吸が可能です。
リハビリで改善する可能性がわずかに残るケースもあるものの、法的には「回復の見込みが乏しい重度後遺障害」と評価されます。
また、同じく交通事故で生じ得る「高次脳機能障害」と混同されることもありますが、運動や会話が可能なケースが多い高次脳機能障害と比べると、一般的に遷延性意識障害はより重い障害とされています(ただし、高次脳機能障害も重度なケースがあります。)。
認定される可能性がある後遺障害等級は、別表1・1級1号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」)となります。
意識不明状態の場合には、治療費・介護費が将来に渡って継続的に発生します。そのため、賠償金の総額が高額となりやすく、金額を巡って加害者側と争いになるケースが多いです。

損害賠償請求の基本構造 |
交通事故で損害賠償を請求する場合、請求の相手は加害者本人です。
しかし、加害者が任意保険に加入している場合、交渉窓口となるのは加害者側の任意保険会社であり、実際の支払いを行うのもその保険会社となります。
「誰が賠償請求するのか」という請求の主体は、被害者本人です。
しかし、意識不明の場合には、被害者本人が十分な意思表示ができないため、「成年後見人」の選任が必要となります(ただし、被害者が未成年の場合は、親権者が法定代理人となるため、後見人を選任する必要はありません ※1。)。
まずは、加害者側(任意保険会社)と示談交渉を行い、交渉が決裂した場合には訴訟を提起して解決を目指します。
【解決までの流れ】
| 1.成年後見人の選任 |
| 2.医療記録・介護記録などの証拠収集 |
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3.自賠責保険に対する後遺障害申請・損害賠償金の算定 |
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4.加害者側の保険会社との示談交渉 |
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5.(交渉が決裂した場合は)訴訟 |
いずれにしても、加害者側の保険会社が当初提示する金額は大幅に低いため、裁判基準での賠償を目指すことが重要となります。
※1:親子で同乗していた事故で、かつ被害者側にも過失が一定程度認められるようなケースでは、「特別代理人」の選任が必要となることもあります。
請求できる主な損害項目 |
交通事故によって意識不明の状態となった場合には、様々な損害項目で請求ができます。
主なものは、①治療費・介護費等、②逸失利益、③慰謝料となります。
① 治療費・介護費等 |
まず大きいのが、治療や介護に関係する費用です。主に以下の費用を請求できます。
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項目 |
内容 |
金額目安 |
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治療関係費 |
入院費、手術費などの医療費 |
実費 |
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入院付添費 |
付添人による看護・介護に要する費用(家族が無償で行う場合も含む) |
近親者:1日6500円 職業付添人:実費 |
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入院雑費 |
入院中の日用品代、通信代など |
1日1500円 |
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通院交通費 |
付き添いの際の交通費 |
実費 |
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将来介護費 |
将来にわたる介護費 |
近親者:1日8000円 職業付添人:実費 |
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器具購入費 |
介護ベッド等の購入費 |
実費(買い替え費用含む) |
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将来雑費 |
おむつなど介護用品の購入費 |
実費相当額 |
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家屋 |
介護のために自宅や自動車の改造を要した際の費用、転居費用 |
相当額 |
まずは、症状固定(治療しても症状の改善が見込めない状態)までの治療費や付添費用などを請求できます。
ケースで異なりますが、遷延性意識障害では症状固定まで1年、回復の兆候がある場合にはそれ以上の期間がかかるのが一般的です。
加えて、症状固定後の将来にわたる治療費・介護費や自宅の改造費用などの請求もできます。
将来介護費は、介護人の人数や介護期間(平均余命)をもとに計算します。しかし、金額が数千万規模となるだけに、1日あたりの費用や介護期間を巡って、加害者側と争いが生じやすいです。具体的には「費用はそこまでかからない」・「平均余命よりも短命になる可能性が高い」などの反論が想定されます。
その他にも、自宅介護や改造の必要性・相当性など争いに発展しやすいポイントが多数存在します。
交通事故で意識不明になったケースでは、主張内容や有効な証拠を出せるかによって、受け取れる額が大きく変動しやすいです。

② 逸失利益 |
意識不明となり将来に渡って働けなくなると、本来受け取れるはずだった収入を受け取れなくなってしまいます。この将来の収入の喪失は、「逸失利益」という項目で補償を受けられます。
逸失利益の計算式は以下のとおりです。
| ㋐基礎収入 × ㋑労働能力喪失率 × ㋒労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
㋐基礎収入は、原則として事故前年の収入です。
会社員はもちろん、自営業者も前年の収入をもとに計算します。また、収入がない主婦(主夫)や学生も、平均賃金をもとにした請求が認められています。
㋑労働能力喪失率とは、後遺障害によって労働が出来なくなった程度を数値化した割合です。
意識不明となっていれば労働が一切できないため、労働能力喪失率は100%として計算します。
㋒労働能力喪失期間は、原則として67歳までの年数です。
運用益を除くために、年数をそのまま掛けずに、「ライプニッツ係数」という数値が用いられます。
具体的なライプニッツ係数の数値は、以下でご確認ください。
【参考:就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省】
将来の介護費と同様に逸失利益も金額が大きくなるため、争いになりやすいといえます。
なお、逸失利益は、症状固定後の収入に対する将来の補償です。症状固定前(治療中)の収入は「休業損害」として、1日あたりの平均賃金に日数を掛けた金額を前提に請求ができます。
| 逸失利益の詳細は、「将来の収入減はどこまで補償される?|交通事故の逸失利益を弁護士が分かりやすく解説」もご覧ください。 |
③ 慰謝料 |
精神的な苦痛についての慰謝料も請求が可能です。
症状固定前は「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」、症状固定後は「後遺障害慰謝料」として請求します。
入通院慰謝料は、原則として入通院期間によって決まります。
意識不明の場合には、事故から症状固定まで継続して入院しているものと考えられます。その入院期間に応じて、裁判基準で算定される額は以下のとおりです。
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入院期間 |
入通院慰謝料(裁判基準) |
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1月 |
53万円 |
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2月 |
101万円 |
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3月 |
145万円 |
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4月 |
184万円 |
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5月 |
217万円 |
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6月 |
244万円 |
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7月 |
266万円 |
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8月 |
284万円 |
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9月 |
297万円 |
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10月 |
306万円 |
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11月 |
314万円 |
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12月 |
321万円 |
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13月 |
328万円 |
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14月 |
334万円 |
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15月 |
340万円 |
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて決まります。
後遺障害等級は1級から14級に分かれており、1級が最も重い障害です。
遷延性意識障害の場合は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として、通常は1級1号が認定されると考えられます。
1級の後遺障害慰謝料は、裁判基準によると2800万円です。ただし、加害者側の任意保険会社は、自賠責基準(1650万円)などで算定した低額な慰謝料を提示してきます。
なお、次で説明するとおり、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料とは別に「家族固有の慰謝料」が認められる可能性もあります。
家族が請求できる「固有の慰謝料」 |
被害者の方が死亡した場合は、遺族(父母・配偶者・子)も多大な精神的苦痛を受けるため、遺族固有の慰謝料が発生します(民法711条)。
被害者本人が亡くなっていないケースであっても、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」場合には、民法709条・民法710条の規定に基づいて、自己固有の権利として慰謝料を請求することが出来ます(最判昭33・8・5民集12巻・12号・1901頁)。
つまり、被害者の方が亡くなったときに匹敵するような精神的苦痛を受けた場合、判例上、家族固有の慰謝料が認められています。
被害者の方が意識不明になっているときは、大切な方と意思疎通が出来なくなり、将来の不安を抱えながら介護にあたるよう強いられるなど、家族には大変な精神的苦痛が生じます。したがって、被害者本人の慰謝料とは別に、父母・配偶者・子などに家族固有の慰謝料が認められる可能性があります。
ただし、具体的な額について、明確な基準が示されておらず、個々の事案ごとの判断に委ねられています。
この点、「交通事故損害額算定基準」の「第3章」「第2」「ⅲ」の解説には、家族固有の慰謝料総額を(被害者)「本人慰謝料の3割程度とする考え方も公表されたが」「裁判例の動向としては、必ずしもこのような水準になっていない」との指摘があります(実際に、3割以上が認められているケースもありますが、多数は3割を下回る水準です。)。
意思表示できない場合の法的対応 |
被害者の方が意識不明になっていると、十分な意思表示が出来ず、加害者側と交渉や裁判を行うことが出来ません。そこで、成年後見制度を利用することが必要です。
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に対し、「後見人選任の申立て」をしなければなりません。
後見人を選任する際は、弁護士と連携して、申立書類の準備と証拠整理を同時に進めるのが良いでしょう。
なお、家庭裁判所への申立費用は、損害賠償の一部として加害者側に請求できるものがあります。

示談・訴訟でのポイント |
加害者側の保険会社は、示談交渉で「自賠責基準」や保険会社独自の「任意保険基準」に基づいて、低い金額を提示してくるケースがほとんどです。裁判基準との差額が数千万円単位になり得ます。
特に、将来の介護費や自宅介護の必要性などは争いになりやすいです。適正な賠償金を得るには、医療記録・診断書・介護計画書・生活記録などを整理して証拠とし、主張していくことが重要となります。
弁護士が関わることで、裁判基準での交渉や訴訟が可能になります。
【相談すべき時期】
「意識回復が難しい」と医師に告げられた段階で、できる限り早く相談するべきです。理由は以下のとおりです。
| ◆初期段階の医療記録収集が重要 |
| ◆介護計画・将来費用の算出に専門性が必要 |
|
◆加害者側の保険会社の交渉に備える必要がある |
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◆「成年後見の申立て」に関する準備が必要 |
意識不明の事案では、賠償額が大きく専門的な争点も多いため、弁護士に依頼するメリットが非常に大きい分野です。
まとめ |
交通事故で被害者の方が遷延性意識障害(植物状態)になると、ご本人だけでなく家族の人生も一変します。
介護や生活の安定のためには、治療費・介護費や逸失利益、慰謝料など適正な賠償金の獲得が不可欠です。
しかし、加害者側は不当に低い金額を提示してくる傾向にあります。意識不明に至る交通事故は、医療・介護・法律の3分野が交わる領域であり、これらに精通した弁護士による支援が最も重要です。
ご家族の負担を減らしつつ、適正な賠償金を獲得するために、交通事故に強い弁護士にぜひご相談ください。
介護・生活・将来への不安の全てをご家族だけで背負う必要はありません。
湊第一法律事務所では、交通事故被害者の方を多数サポートしてきており、遷延性意識障害においても豊富な実績を有しています。弁護士が直接対応し、ご家族の想いに寄り添い、将来を見据えた解決をサポートいたします。
初回相談は無料です。加害者側との交渉で心まですり減らす必要はありません。まずはお問い合わせください。

【この記事の監修弁護士】
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弁護士 國田 修平 依頼者と「協働する姿勢」と、法律用語を平易に伝える対話力に定評がある弁護士。 |
<略歴>
愛媛県出身。明治大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
全国展開の弁護士法人に入社し、2年目には当時最年少で所長弁護士に就任。その後、関東に拠点を移し、パートナー弁護士として、組織運営や危機管理対応、事務局教育などに携わる。労働法務・社内規程整備などの企業法務から、交通事故・相続・離婚・労働事件といった個人の法律問題まで幅広く対応。中でも、交通事故(被害者側)の損害賠償請求分野では、850件の解決実績を有する。
弁護士業務の傍ら、母校・明治大学法学部で司法試験予備試験対策講座の講師も務め、次世代を担う法曹育成にも力を注いでいる。
<主な取扱分野>
・企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
・債権回収
・交通事故などの損害賠償請求事件
・労働事件(労使双方)
