コラム
2025/09/30

交通事故で保険会社から「治療費打ち切り」と言われたら?正しい対応と弁護士の役割

 交通事故によるケガで通院を続けている最中、保険会社から突然、「治療費の支払いを打ち切ります。」と連絡が来るケースがあります。
 治療を続けたいにもかかわらず、「支払い打ち切りによって自己負担になるのではないか。」と不安を抱え、通院を止めてしまう方もいらっしゃることでしょう。

 保険会社が治療費の打ち切りを通告してくるのは、多くのケースで、余計な保険金を支払いたくないと考えているためです。
 保険会社に打ち切りの意向を示されても、医師が治療継続を要すると判断しているのであれば、ケガからの回復や適正な金銭補償のため、通院を継続する必要があります
 したがって、打切りを宣告された場合には、適切な対応をすることが大切です。

 とはいえ、ご自身で保険会社に立ち向かうのは容易ではありません。この点、弁護士に依頼すれば、治療費打ち切りの撤回に向けた交渉を任せることが出来ます。

 本記事では、≪治療費打ち切りの仕組み≫・≪被害者の対応方法≫・≪弁護士が果たす役割≫を、交通事故(被害者側)の賠償請求に豊富な解決実績を有する弁護士が詳しく解説します。

 保険会社から治療費の打ち切りを宣告された方は、是非、最後までお読みください。


通院打ち切りとは?

 交通事故で要する治療費は、相手方の任意保険会社から病院に直接支払われるのが一般的です。これを、実務上、「一括対応(いっかつたいおう)」と呼びます。
 この対応によって、被害者は、病院や薬局の窓口で自己負担せず、通院を続けることが出来ます。

 もっとも、このような対応は、あくまで保険会社のサービスであり、法的な義務ではない側面があります。したがって、治療している最中であっても、保険会社から治療費支払いの打ち切りを宣告されるケースがあります。
 その結果、治療費が支払われないとなれば、被害者には多大な影響が生じるでしょう。

 そこで、まずは保険会社が支払いを打ち切る理由や被害者に与える影響をご説明します。

 保険会社が治療費支払いを打ち切る理由

 任意保険会社が治療費の打ち切りをしてくるのは、主として支払額を抑えるためです。

 任意保険の保険金は、自賠責保険の上乗せとして支払われます。任意保険会社は、自社で支払った治療費等について、自賠責保険の限度額までは自賠責保険会社に後から請求(求償)が出来ます。
 ところが、限度額を超えた部分は、任意保険会社が負担しなければなりません。保険会社は営利企業である以上、自社の負担額を抑えようと考えるのが通常です。

 そのため、次のようなケースでは、治療費打ち切りを通告し、通院を止めさせたうえで、支払額を抑えようとするのです

症状の割に治療が長引いている。
・通院頻度が多く、支払額が膨らんでいる。
・長期間通院が途絶えている。通院の間隔が空いている。

 被害者の中には必要がないのに治療を続ける人がいるケースも否定できず、このような場合では、保険会社の打ち切り対応に理があることもあります。
 しかし、実際に症状が出現していて、また医師が治療を要すると考えているケースまで打ち切りをするのは不適切です。

 被害者への影響

 治療費を打ち切られてしまうと、被害者には次の影響が生じます

通院を続けた際の治療費を自己負担させられる。
通院を止めると、後遺障害認定にマイナスに働くおそれがある。
不利な条件で示談させられる可能性がある。

 詳細は次で説明しますが、通院を続けるにせよ止めるにせよ、治療費打ち切りによるマイナスの影響は大きいと言えます。


通院打ち切り時に起こり得る問題点

 では、治療費打ち切りに伴って生じる問題点を見ていきます。

 治療費が支払われず通院を継続できなくなる

 保険会社の判断によって、治療費の支払いが停止されると、金銭的負担から通院を継続できなくなるおそれがあります。
 結果的に必要な治療を受けられないと、ケガから十分な回復が出来ません。

 保険会社が打ち切りを宣告してきても、医師が治療を要すると考えているのであれば、身体のために通院を止めず、治療を継続するべきです。そして、治療の正当性が認められれば、かかった治療費を後から請求できる可能性があります。

 後遺障害の認定を受けられない可能性がある

 治療費打ち切りをきっかけに通院を止めると、後遺障害の認定で不利に働くおそれがあります。

 通院をしていない場合、完治した、あるいは治療の効果が見込めない「症状固定」の状態になったと判断される可能性があります。
 本当に完治・症状固定の状態であれば良いのですが、まだ改善の余地があるのであれば問題となります。

 後遺障害の認定は、症状固定時の症状を対象として判断されます。しかし、治療期間が短いと「症状はひどくない」とみなされてしまうリスクがあります

 たとえば、むち打ちで後遺障害が認定されるには、一般的に6ヶ月以上の通院期間が必要です。
 治療費打ち切りが原因で、本来よりも早く通院を止めてしまうと、治療期間が足りないために後遺障害の認定対象外とされるおそれがあります。

 後遺障害が認定されると、逸失利益や後遺障害慰謝料を受け取れるため、賠償総額が大幅に増加します。しかし、通院打ち切りが原因で後遺障害の認定がおりないとなれば、得られるはずであった高額の賠償金を受け取れなくなってしまうのです。

むち打ちに関する後遺障害については、「むち打ちの症状が長引くときに知っておきたい後遺障害等級のポイントを徹底解説」もご覧ください。

 不利な条件で示談させられる可能性がある

 早期に治療を打ち切ると、示談条件が不利になってしまう可能性があります。

 たとえば、入通院慰謝料は、(裁判基準でおおまかに言えば、)治療期間によって決まるため、金額が減少します。
 また、通院打ち切りを素直に受け入れる被害者に対しては、保険会社が足元を見て交渉してくるかもしれません。法的に受け取れる金額が減少するだけでなく、提示額を低めに抑えてくる可能性があります。

 通院打ち切りは、最終的に受け取れる賠償額に影響を与える可能性があります。

むち打ちに関する慰謝料については、「交通事故でむち打ち・・・。慰謝料はいくら?被害者が知るべき重要ポイントを解説。」もご覧ください。

通院打ち切り時に被害者が取るべき対応

 治療費の打ち切りを宣告されても、治療を要するのであれば通院を継続するべきです。そこで、治療費打ち切りを通告された際に被害者がとるべき対応を、以下にまとめました。

 医師に治療継続の必要性を確認

 まずは、医師に治療継続が必要であるかを確認しましょう

 後に治療が正当であったかを判断する際には、原則として、医師の意見が尊重されます。
 医師が必要だと考えているのであれば、治療を継続するべきです。反対に、医師に「必要ない。」と言われてしまったときは、相手方に治療費を請求するのは困難となります。

 保険会社とのやり取りの注意点

 医師が通院の継続が必要と考えているときは、保険会社に治療費の支払い延長を求めます。
 
やり取りをする際には、あいまいな回答は避けましょう。支払い継続を求める意思を明確に示していないと、打ち切りが断行されてしまいます。

 被害者としては、医師の見解などの根拠を示しつつ、はっきりと支払い継続を要求してください。
 延長の有無や期間について「言った・言わない」の争いを避けるために、書面でのやりとりや電話の録音などにより証拠を残しておくのが望ましいです。

 もっとも、保険会社は交渉に慣れているため、被害者が対等にやりとりするのは容易ではありません。そのため、打ち切りを通告されたら、早めに弁護士に相談するのがオススメです。

 健康保険の利用

 たとえ根拠を示して交渉したとしても、保険会社が延長に応じてくれるとは限りません。
 治療費を支払ってもらえないと、金銭的に通院の継続が難しい場合もあるでしょう。そこで、健康保険の利用が考えられます。

 手続きをすれば、交通事故でも健康保険の利用は可能です(厚生労働省『犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて』)。健康保険を使えば、原則3割負担で治療できるため、支出を大幅に抑えられます。

 そして、事後的に治療の必要性が認められれば、健康保険で支払った分も後から相手方に請求可能です。仮に、必要でないと判断されても、健康保険の利用により自己負担を最小限に抑えられます。

 なお、通勤中・業務中の交通事故では健康保険は使えず、労災の対象となりますのでご注意ください。
 


弁護士が果たす役割

 治療費打ち切りに対して、弁護士は以下の対応をとれます。

 保険会社との交渉代行

 通院の継続を要するケースでは、延長に向けた保険会社との交渉を被害者の方に代わって行います。

 保険会社は交渉に慣れているため、被害者自身が打ち切り撤回を求めても簡単には応じません。
 もっとも、交通事故に精通した弁護士であれば、効果的な論拠や交渉上の駆け引きについてのノウハウが豊富です。保険会社のペースに飲まれずに交渉を進めることが可能です。

 後遺障害等級認定サポート

 治療が終了した後に症状が残っているときには、弁護士が後遺障害の認定をサポートします。

 適切な後遺障害の等級認定を受けるには、法的な専門知識が不可欠です。一般の方が進めるには、大変な手間や苦労を伴います。
 交通事故の解決実績が豊富な弁護士に依頼すれば、資料収集から申請手続きまで安心して任せられます。

 裁判・紛争解決までの対応

 治療が終了し、後遺障害の有無や等級が確定すると、保険会社との示談交渉に移ります。
 交渉で合意できないときは、訴訟等の法的手続きの活用が必要です。弁護士は、交渉から裁判まで、紛争解決を全面的にサポートします。


弁護士に相談するメリット

 治療費打ち切りを宣告されたら、弁護士への相談がオススメです。相談・依頼するメリットとしては、次が挙げられます。

保険会社に直接対応するストレスから解放される。
必要な期間治療ができ、適正な治療費・入通院慰謝料を請求できる可能性が高まる。

 金銭的なメリットはもちろん、時間的・精神的な負担が軽減される点も大きいです。ご不明な点があれば、まずはご相談ください。

交通事故被害について弁護士に相談するメリットの詳細は、「交通事故の被害に遭ったら...。弁護士に相談すると何が変わるの?」もご覧ください。

 


まとめ

 ここまで、治療費打ち切りを通告された際の対応や弁護士の役割などを解説してきました。

 相手方の任意保険会社は、支払額を抑えるために治療費を打ち切ってくるケースがあります。 
 被害者としては、以下の対応を検討しましょう。

医師に治療が必要か確認する。
・治療が必要であれば、保険会社に打ち切り撤回を求めて交渉する。
・撤回に応じてもらえないときは、健康保険を利用して通院を継続する。

 

 もっとも、被害者ご自身で保険会社との交渉を進めるのは容易ではありません。そこで、弁護士に相談して次の対応を任せるのがオススメです

治療費支払いの延長交渉
・後遺障害申請
・示談交渉、訴訟による紛争解決

 対応が遅れてしまうと、打ち切りが実行され、治療終了が既成事実化してしまいます。そのためお早めにご相談ください。

 湊第一法律事務所では、交通事故被害者の方を多数サポートしてきており、治療費打ち切りへの対応や後遺障害認定、交渉・訴訟を通じた賠償金獲得に豊富な実績を有しています。あなたの状況に合わせた最善の解決策を提案いたします。

 初回相談は無料です。どんな小さな悩み・疑問でも構いません。治療費打ち切りを宣告された方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

投稿日:2025年9月30日


【この記事の監修弁護士】

弁護士 國田 修平
第二東京弁護士会所属
湊第一法律事務所・パートナー弁護士

依頼者と「協働する姿勢」と、法律用語を平易に伝える対話力に定評がある弁護士。
紛争の背景にある事情を丁寧にくみ取り、依頼者と共に解決への道筋を描くスタイルを貫いている。

<略歴>
愛媛県出身。明治大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。

全国展開の弁護士法人に入社し、2年目には当時最年少で所長弁護士に就任。その後、関東に拠点を移し、パートナー弁護士として、組織運営や危機管理対応、事務局教育などに携わる。労働法務・社内規程整備などの企業法務から、交通事故・相続・離婚・労働事件といった個人の法律問題まで幅広く対応。中でも、交通事故(被害者側)の損害賠償請求分野では、850件の解決実績を有する。
弁護士業務の傍ら、母校・明治大学法学部で司法試験予備試験対策講座の講師も務め、次世代を担う法曹育成にも力を注いでいる。

<主な取扱分野>
企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
債権回収

交通事故などの損害賠償請求事件
労働事件(労使双方)

<弁護士・國田修平の詳しい経歴等はこちら>

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